【イル・トロヴァトーレ】あらすじと対訳・ヴェルディ

イル・トロヴァトーレ

「イル・トロヴァトーレ」は、イタリア語で「吟遊詩人」の意味。吟遊詩人マンリーコを巡る、悲劇のオペラです。「リゴレット」「イル・トロヴァトーレ」「椿姫」は、ヴェルディ中期の傑作と言われています。

全体的に音楽が聴きやすく、話の筋が面白いので、初心者でも楽しみやすいオペラです。

見どころの第3幕「見よ恐ろしい炎を」Di quella piraは、特に有名で聴き逃せません。

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オペラ「イル・トロヴァトーレ」の簡単なあらすじ

15世紀のスペイン。ルーナ伯爵には赤ん坊の頃に誘拐された弟がいて、今も探している。

ルーナ伯爵は女官のレオノーラに恋をしたが、彼女はすでに吟遊詩人のマンリーコと相思相愛だった。マンリーコとルーナ伯爵は敵対した末に、レオノーラは亡くなり、マンリーコは処刑される。

マンリーコの育ての母アズチェーナによって、マンリーコがルーナ伯爵の弟だと知らされ、ショックを受けるルーナ伯爵。

相関図と登場人物(マンリーコ、レオノーラ、ルーナ伯爵)

イル・トロヴァトーレ 相関図
相関図をタップすると、大きく表示できます。
マンリーコ吟遊詩人テノール
レオノーラアラゴン王妃の女官ソプラノ
ルーナ伯爵アラゴン王国の貴族バリトン
アズチェーナジプシーメゾソプラノ
フェランドルーナ伯爵の家臣バス
ルイスマンリーコの部下テノール

アズチェーナが、裏の主人公

ジプシーのアズチェーナは、物語の中で深く関わる重要人物です。

  • かつて、火あぶりにされる母を見た
  • 火の中に伯爵の子供を入れようとして、間違えて自分の子供を火の中に
  • 手元に残った伯爵家の子供を、自分の子供として育てた

息子同然に育てたマンリーコ(母を処刑した伯爵家の息子)への複雑な愛と、火あぶりにされた母への思いで苦しむ姿が描かれています。

作曲ヴェルディ・初演・原作・台本・上演時間

イル・トロヴァトーレ Il Trovatore

  • 作曲 ヴェルディ
  • 初演 1853年1月19日 ローマ アポロ劇場
  • 原作 アントニア・ガルシア・グティエレス「エル・トロヴァドール」
  • 台本 サルヴァトーレ・カンマラーノ、エマヌエレ・バールダレ イタリア語
  • 上演時間 2時間10分(第1幕30分 第2幕40分 第3幕20分 第4幕40分)

【解説】「イル・トロヴァトーレ」の時代背景と地図

イル・トロヴァトーレ 地図

「イル・トロヴァトーレ」は、15世紀、スペイン、アラゴン王国の首都サラゴサにある「アルハフェリア宮殿」と、「ビスカヤ地方の山」で物語が進みます。

世界遺産の「アルハフェリア宮殿」がオペラの舞台

アルハフェリア宮殿は、11世紀イスラム支配時期に建てられたイスラムの宮殿で、その後アラゴン王国時代に改築されています。現在は、世界遺産に登録。

「カスペの妥協」レオノーラが言った「アラゴン王国の内乱」

オペラでは、ルーナ伯爵とマンリーコは出会う前から、政治的に対立しています。レオノーラが台詞で「内乱が起こった」と言っていますが、実際に1410年マルティン1世が後継者を決めないまま亡くなり、一時内乱状態になったのです。

ルーナ伯爵は、カスティーリャ王子側につき、マンリーコは、ウルジェイ伯(ウルヘル伯)側につきました。台詞でマンリーコに向かって下のように言っています。

ルーナ伯爵

(マンリーコに向かって)ウルジェイ伯の支持者には、死刑判決が出ているのに、よく宮殿に来たな!

内乱を経て、「カスペの妥協」という合意により、カスティーリャ王子が王位につき、フェルナンド1世として国を統治しました。

「イル・トロヴァトーレ」第1幕の簡単な対訳 決闘

第1場 家臣が昔話「伯爵家を恨む、ジプシー女の話」

「アルハフェリア宮殿」門の前

夜、ルーナ伯爵の家臣と従者たち、衛兵たちが寝ずの番をしている。

ルーナ伯爵の家臣
しっかり見張れ。今、ルーナ伯爵は、思い人レオノーレの部屋近くで過ごしている。あの方の身の安全を守るのだ。

ルーナ伯爵が警戒するのも無理からぬことだ。彼女の庭先で、吟遊詩人が、夜ごと歌を歌うのだから。

従者ら
ああ、眠い。眠気を追い払うために、伯爵様の弟君の話をしてくれ。

衛兵ら
私たちもその話を聞きたい。

話を聞こうと従者や衛兵らが、ぐるりと家臣を取り囲む。

ルーナ伯爵の家臣
みんなで聞くといい。

先代の伯爵様はふたりのお子さんをお持ちだった。ルーナ伯爵と、今なお行方不明の弟君だ。

昔、幼子の弟君が眠りにつく頃、何者かが忍び寄った。そばで眠っていた乳母は起きて、誰がいるのかと目を凝らした。

「ふたりのお子様の父親」Di due figli vivea padre beato

衛兵ら
誰だったのです?

ルーナ伯爵の家臣

卑しい老婆だった。老婆は「幼子の星占いをしたかったから、部屋に忍び込んだ」と。乳母は叫び声を上げて、老婆は去った。

その日から弟君は、熱を出し夜通し泣き続けるようになった。老婆が呪いを掛けたのだ。

すぐに老婆は捕らえられ、火あぶりに。だが、その老婆には、一人娘がいた。残された娘は、伯爵家に復讐を企てた。

なぜか、老婆を火あぶりにした灰の中から、赤子の骨が出てきたのだ。慌てて伯爵が息子の姿を探すが、見つからない。同時に、老婆の娘も姿を消した。

先代の伯爵様は「息子は必ず生きている」と信じていた。「弟の行方を捜すように」とルーナ伯爵に頼み、亡くなったのだ。

ああ、私はその場にいて女の顔を知っている。私がジプシーの女を捕まえることができたら!

「卑しき老婆」Abbietta zingara, fosca vegliarda!

従者ら・衛兵ら
極悪非道の魔女め。地獄に落ちてしまえ。

真夜中を知らせる鐘の音。皆が身震いして立ち去る。

第2場 相思相愛のレオノーラとマンリーコ。振られた、ルーナ伯爵

「アルハフェリア宮殿」宮殿内の庭

月の見えない薄暗い夜。庭から、レオノーラの部屋のバルコニーへ続く階段が見える。

レオノーラの侍女
ここにいらしたのですか?王妃様があなたをお呼びですよ。

夜ごと殿方を待つなんて。あなたは危険な恋に落ちています。一体いつ、その恋は始まったのです?

レオノーラ

遠い昔、馬上試合で誰とも知れぬ騎士が勝利を収めたのよ。私は栄光を授ける花冠を騎士に乗せたわ。内乱が起き、長い年月が過ぎた。

ある穏やかな夜、吟遊詩人の歌声が庭先に響いてきた。私の名を呼ぶ、悲しげな歌声。バルコニーから見ると、あの騎士の方だった。天にも昇る気持ちだったわ。

「穏やかな夜」Tacea la notte placida

レオノーラの侍女
あなた様の話を聞くと、不安になりますわ。不吉な予感がします。友情からの言葉を聞いて下さいませ。

レオノーラ

何を言っているの。

この恋は言葉では表現できないの。私の運命はあの方と共にある。共に生きるのでなければ、あの方のために死ぬでしょう。

「この恋は言葉では表現できない」Di tale amor che dirsi

レオノーラと侍女はその場を立ち去り、自分の部屋に戻る。


レオノーラのバルコニーの下で、ルーナ伯爵はひとり。

ルーナ伯爵

静かな夜だ。王妃は眠っているだろう。レオノーラ、彼女の部屋には、明かりが見える。起きているのだろう。

どうか私の思いを聞いて欲しい。今夜がレオノーラに思いを伝えるチャンスかも知れない。いや、ここに吟遊詩人がいる!

「静かな夜だ」Tace la notte!

茂みの影から、マンリーコの声が響いてくる。

マンリーコ

(マンリーコの声)
この世にひとり寂しく、武運はなく、望みは乙女の真心だけ。この吟遊詩人には。真心を得ることができれば、王にも勝るだろう。

「この世にひとり寂しく」Deserto sulla terra

ルーナ伯爵

(図々しいやつ。)

マンリーコの声を聞きつけて、レオノーラが部屋から階段で下りてきた。暗闇のために、ルーナ伯爵に抱きつく。

レオノーラ

私の大切なお方!!

ルーナ伯爵

(抱きつかれてしまった。どうしたら?)

マンリーコ

(マンリーコの声)
不実な女!!

マンリーコが姿を現して、レオノーラは間違いに気がつく。

レオノーラ

あれ、この声は。暗闇のために間違えました。

(マンリーコに向かって)
誤解しないで下さい。あなたを愛しています。私の心が求め、愛しているのはあなただけです。永遠に。

ルーナ伯爵

あなたはそこまで彼を。

レオノーラとマンリーコは抱き合い喜びを分かち合う。

ルーナ伯爵

おい、お前。卑怯者でないなら、名を名乗れ。

マンリーコ

私は、マンリーコだ。衛兵を呼び、刑を執行すればいい。

ルーナ伯爵

お前は、内乱で敵対した罪ですでに刑罰が決まっている身ではないか。死の宣告を受けているのに、ここに来るとは。お前の運命は決まった。

レオノーラ

どうか、お許しを。

ルーナ伯爵

私の心は嫉妬で燃える。「愛しています」その言葉を、あの男に言うとは!その一言で、あの男の運命は決まったのだ。

「私の心は嫉妬のために・三重唱」Di geloso amor sprezzato

レオノーラ

伯爵様。どうかお慈悲を。あなたの怒りを私に向けて下さい。あなたを侮辱した女に、怒りを注いで下さい。

マンリーコ

うぬぼれた男め。お前の剣で私は死ぬだろう。だが、レオノーラの愛によって、死ぬ運命にある私は無敵になったのだ。

マンリーコとルーナ伯爵は、決闘のために出て行く。レオノーラは気絶する。

「イル・トロヴァトーレ」第2幕の簡単な対訳 ジプシーの女

第1場 マンリーコの母が昔話「自分の子を炎の中に、手元には、伯爵の子」

ビスカヤ地方の山の中

夜明け頃の山の中。崩れかけた家がある。たき火を囲むように、ジプシーの人々。少し離れたところに、マンリーコと母のアズチェーナが座っている。

ジプシーたち(合唱)
夜が明けるぞ。仕事だ。金槌を持て。誰がジプシーの暮らしを彩ってくれる?それはジプシー女だ。

「鍛冶屋の合唱(アンヴィル・コーラス)」
Vedi! Le fosche notturne spoglie(Anvil Chorus)

突然立ち上がり、アズチェーナが歌い出す。ジプシーたちが取り囲む。

アズチェーナ

かつて、激しい炎が音を立てていた。炎を取り囲み、喜びの歓声を上げる人々。群衆が見守る中、ひとりの女が生け贄として火あぶりにされた。呪いの炎は、空高く昇っていった。

「炎は燃えて」Stride la vampa

ジプシーたち
あなたの歌は、痛ましい。

アズチェーナ

実話に基づく歌だから、痛ましいのさ。
(マンリーコに低い声で)敵を取ってくれ、敵を取ってくれ。

マンリーコ

(この妙な言葉をいつも言う・・・)

ジプシーの長老のかけ声で、ジプシーたちは下の村へ降りていく。その場に残ったのは、マンリーコとアズチェーナ。

マンリーコ

そろそろ教えてくれないか。母さん。その歌に関わる実話を。

アズチェーナ

お前の祖母の話だよ。伯爵に逆恨みされて、火あぶりにされた私の母の話だ。

怯え切った女は役人に捕まった。当時、赤子を抱えていた私は必死で母を追った。処刑場に向かう母は私に言った。「敵を取ってくれ」と。

私はすぐに伯爵の赤子を誘拐した。火あぶりの場に戻ると炎の中から、「敵を取ってくれ」と母の叫び声。興奮と錯乱の中、なんとか赤子を炎の中に投げ込んだ。

炎が燃える中、ふと冷静になると、憎き伯爵の赤子が目の前にいた。

「怯え切った女は」Condotta ell’era in ceppi

マンリーコ

何だって?

アズチェーナ

私は自分の子を・・・我が子を炎の中へ!!!

マンリーコ

なんてむごい・・・だが、私は誰の子なんだ?

アズチェーナ

お前は私の息子だよ。あの出来事を思い出すと、錯乱して変なことを言ってしまうのさ。

お前が怪我をすれば看病する、優しい母親だよ。先日、ルーナ伯爵との決闘でお前が傷を負った時には、私は駆けつけて命を救ったではないか。

マンリーコ

そうだな。命の恩人だ。

アズチェーナ

なぜお前はルーナ伯爵との決闘の時に、あいつにとどめを刺さなかったのか?

マンリーコ

私自身も、説明できないのだ。

敵を打ち破り、ルーナ伯爵の命を奪える瞬間があった。だが、天の声が聞こえてきたのだ。「してはならぬ」と。

すぐにルーナ伯爵の部下らが私に襲いかかり、私は大けがを負った。

「敵を打ち破り・二重唱」Mal reggendo all’aspro assalto

アズチェーナ

だが、恩知らずのルーナ伯爵には天の声が届かず、お前は怪我を負った。もし、運命が再び戦う定めを与えたら、必ず殺すのだよ。

「恩知らずには」Ma nell’alma dell’ingrato

マンリーコ

ああ、約束する。ルーナ伯爵を殺すとも。

アズチェーナ

敵を取ってくれ。

マンリーコのもとに、使者が手紙を持ってきた。

マンリーコ

(手紙を読む)
レオノーラは「あなたが死んだ」という誤りの報告を受け、修道院に入られる、とのこと」

何だって!彼女を失ってしまう。修道院に行かなければ。

アズチェーナ

行ってはいけない。お前は傷が治っていないのだから。

「二重唱」Perigliarti ancor languente

マンリーコ

行かせてくれ。レオノーラを失えば、私は死んでしまう。

アズチェーナに引き止められるが、マンリーコは急いで立ち去る。

第2場 「マンリーコの死」の誤報で、レオノーラが修道院入り未遂

修道院・中庭の回廊

夜、ルーナ伯爵と家臣、従者らが修道院の中庭を足早に歩いている。

ルーナ伯爵

儀式は始まっていない。間に合ったな。レオノーラが神の道に進む前になんとしても止めるのだ。

ルーナ伯爵の家臣
あまりにも大胆な行いでございます。

ルーナ伯爵

大胆。そうだな。燃える恋心と激しい自尊心を呼び起こす。レオノーラが他のものになるなど、許せない。彼女は私のものだ。

彼女の微笑みは、星々の輝きよりも美しい。私の愛よ、私のために彼女に語りかけてくれ。

「君の微笑み」Il balen del suo sorriso

ルーナ伯爵の家臣
お考え直し下さい。あまりにも大胆な行いでございます。

ルーナ伯爵

黙れ。私の指示に従うのだ。お前たちは、あの木陰に隠れていろ。

運命の時は来た。喜びが待ち受けている。神でさえあの人を私から奪うことはできない。

「運命の時は来た」Per me, ora fatale

ルーナ伯爵は中庭に残り、家臣や従者らは木陰に隠れる。

尼僧ら
イヴの娘よ。この世の出来事は死を前にしたら、すべてうたかたなのです。雑念を捨て、天を仰ぎなさい。

「合唱・イヴの娘よ」Ah!… se l’error t’ingombra

尼僧たちを引き連れて、レオノーレが歩いてくる。

レオノーラの侍女
あなた様は私たちから永遠に離れてしまうのですね。

レオノーラ

皆さん、泣かないで。マンリーコを失った今、私は神へ身を捧げるべきなのです。いつの日か、天国で彼と結ばれるために。

女性たちの集団に突然現れ、声をかけるルーナ伯爵。

ルーナ伯爵

行かせはしない。お前が進むのは、婚礼の祭壇だ。お前を私のものにするために。

ルーナ伯爵がレオノーレを掴もうとしたところに、間を引き離すようにマンリーコが現れ、驚きの声があがる。

レオノーラ

信じてもいいの?
これは夢なの、幻なの?これほどの喜びに私の心は堪えられないでしょう。あなたは天から戻られたのでしょうか、それとも私が天にいるのでしょうか。

「三重唱」E deggio… e posso crederlo?

ルーナ伯爵

地獄が獲物を逃したようだな。忌々しい。もしお前が生きることを望むなら、私から、彼女から離れるがいい。

マンリーコ

天国は私を迎え入れなかった。地獄への道へも進まなかった。神は私を救ってくれたのだ。

マンリーコは剣をかまえた従者らを多く引き連れており、あたりに緊張感が漂う。

マンリーコ

レオノーラ。私と一緒に行きましょう。

ルーナ伯爵

行ってはならない。

ルーナ伯爵が剣を抜こうとすると、マンリーコの従者らによって剣を奪われる。

レオノーラ

(あの方は恐ろしい。)

マンリーコ

さあ、私と共に行くのですよ。

マンリーコはレオノーラを連れ出して去って行く。尼僧らは修道院の中に避難する。

ルーナ伯爵

理性を失い、心が怒りに満ちている!!

ルーナ伯爵の家臣
彼らは武装しています。どうか諦めて下さい。

追いかけようとするルーナ伯爵を家臣らが止める。

「イル・トロヴァトーレ」第3幕の簡単な対訳 ジプシーの息子

第1場 ルーナ伯爵が、マンリーコの母アズチェーナを捕らえる

ルーナ伯爵の野営地

大きな天幕がある野営地。その場所から、マンリーコのいるカステロール城が見える。多くの兵士たちが、武具を磨いたり思い思いに過ごしている。

ルーナ伯爵の家臣
兵士たちよ。明日にはカステロール城を攻め落とすことになる。準備をせよ。褒美はたくさんあるぞ。

兵士ら
進め、進軍ラッパよ。明日には城に我らの旗が翻るだろう。

「合唱」Squilli, echeggi la tromba

天幕から出てきたルーナ伯爵は、忌々しげにカステロール城を見ている。

ルーナ伯爵

私の思い人は、恋敵の腕の中。今は苦しみに耐えなければ。明日にはふたりを引き離してやる。レオノーラ!

「あの人は恋敵の腕の中」In braccio al mio rival!

ルーナ伯爵の家臣
陣営近くをジプシーの女がうろついていました。兵士たちが捕まえています。

両手を縛られたアズチェーナが、兵士たちに連行されてくる。

アズチェーナ

助けてくれ。私は何も悪いことをしていない。

ルーナ伯爵

私の質問に答えろ。嘘をつけば容赦しない。

アズチェーナ

私はジプシー。自由に生きている。ビスカヤから山を下りて、息子を探しにやってきたんだ。

ルーナ伯爵

(ビスカヤだと?)

ルーナ伯爵の家臣
(その地名は!それに、あの女の顔は!!)

アズチェーナ

貧しい暮らしだよ。一人息子がいるから満足だよ。でも、息子が私を置いていったから、こうやって探しているんだ。

「貧しく暮らして・三重唱」Giorni poveri vivea

ルーナ伯爵

お前はビスカヤで長く過ごしたのか?覚えているか?伯爵の息子が城から誘拐され、その地へ連れ去られたのだが・・・

アズチェーナ

あんたは何者なんだい?

ルーナ伯爵

連れ去られた子の兄だ。何か、話を聞いていないか?

アズチェーナ

(ああ!!)

ルーナ伯爵の家臣
(やっぱり、あの女に違いない!!)


ルーナ伯爵。この女が弟君を誘拐した者に違いありません。

ルーナ伯爵

お前の運命は決まった。(兵たちに)もっときつく縛り上げろ。

アズチェーナ

マンリーコ、お前は助けに来てくれないのか!母を助けに!

ルーナ伯爵

マンリーコの母親なのか!運命が我が手に戻ってきた。

アズチェーナ

恥知らずめ、縄を緩めておくれ。非道な親の、邪悪な息子め。神は貧しき者の味方だ。

「恥知らずめ」Deh, rallentate, o barbari

ルーナ伯爵

マンリーコは、ジプシーの息子なのか。母親を痛めつければ、あいつは傷つくだろう。灰となった弟の復讐ができるのだ!

伯爵の指示で兵士たちはアズチェーナを連行し、ルーナ伯爵と家臣は天幕に戻っていく。

第2場 マンリーコとレオノーラ、結婚しようとするが、母を救出に

カステロール城・広間

広間の外では、武器の音や慌ただしく動いている兵士たちの気配がしている。広間は礼拝堂へ続いている。

マンリーコ

危険が高まっている。明日の夜明けには、この城は攻撃されるだろう。だが、我々は勝利する。武力と勇気を持っているから。

レオノーラ

私たちの結婚は暗い光に照らされているのね。

マンリーコ

不吉な予感は捨てて下さい。

愛しい人よ、こういうときこそ、崇高な愛があなたの心に語りかけるだろう。互いに伴侶にすることで、私はより強くなっていく。だが、もし死ぬとしても、思いはあなたのもとに向かうだろう。

さあ、ふたりで祭壇へ向かおう。

「愛しき人よ」Ah! sì, ben mio, coll’essere

マンリーコとレオノーラは手を取り、礼拝堂へ向かう。

マンリーコの部下
大変だ。バルコニーに来てくれ。ジプシー女が足かせをつけられている。すでに、火あぶり用の炎まで準備されています。

マンリーコ

私の母だ。卑怯者め。今すぐ部下を集めてくれ。すぐに進軍するぞ。

あの処刑台の炎は、私の心に火をつけ、燃え立たせる。哀れな母さん、なんとしても急いで助けに行かなければ。

「見よ、恐ろしき炎を」Di quella pira

部下たちは慌ただしく集結し、戦いに向かっていく。

「イル・トロヴァトーレ」第4幕の簡単な対訳 処刑

第1場 レオノーラは毒を飲み、マンリーコを救うため、ルーナ伯爵と交渉

「アルハフェリア宮殿」塔が見える、城壁

真夜中、マンリーコが幽閉されている塔が見える、城壁。レオノーラとマンリーコの部下が目立たぬようにしている。

マンリーコの部下
マンリーコはこの塔に幽閉されています。政治犯として収容された人々の声が聞こえるかも知れません。

レオノーラ

私を置いて行って下さい。私への心配はなさらないで。
(マンリーコの部下が立ち去る)

私には、この指輪のお守りがあるから。(思惑ありげに指輪を見る)

愛はバラ色の翼に乗って、哀れな囚人の心を慰めて。あの方に、愛の日々を甦らせておくれ。

「恋はバラ色の翼に乗って」D’amor sull’ali rosee

嘆きの声
憐れみたまえ。帰ることのない旅路が間近な者たちを。

「合唱・ミゼレーレ」Miserere

レオノーラ

恐ろしい祈りの声が聞こえてくるわ。

マンリーコ

(塔の中から、マンリーコの声)
さようなら、レオノーラ。私を忘れないで欲しい。さようなら。

レオノーラ

あなたを忘れるなんて・・・

この世に私の愛ほど強いものはありません。私の死をもって、あなたを救いましょう。もしできなければ、あなたと共に死ぬことしか考えていません。

「この世に私の愛ほど」Tu vedrai che amore in terra

ルーナ伯爵と従者らが、城壁に現れる。レオノーラは影に隠れる。

ルーナ伯爵

命令は聞いているな。夜は明けたら、マンリーコは打ち首。母親の女は、火あぶりにしろ。

従者らは、マンリーコが幽閉されている塔の中に入っていく。

ルーナ伯爵

君主は私にこのことに関わる全ての権限を与えてくれたが、私は職権を乱用しているだろう。レオノーラのためにここまでするとは。私に取って災いの女だ。

マンリーコを捕らえてから、レオノーラを探しているが見つからない。どこにいるのだろうか?

暗がりから進み出る、レオノーラ。

レオノーラ

私はここにいます。

私の涙をご覧ください。どうかマンリーコをお救いください。私を殺してかまいません。どうぞ殺して、私の亡骸を踏みつけてください。

「涙をご覧ください」Mira, di acerbe lagrime

ルーナ伯爵

お前があいつを愛すれば愛するほど、私の怒りは燃え上がるだけだ。

ルーナ伯爵が去ろうとすると、レオノーラはすがりつく。

レオノーラ

私の身を差し上げます。一度、マンリーコと会わせてください。そして、彼を逃がしてください。そうすれば、私はあなたのものです。

ルーナ伯爵

これは私の夢なのか?誓ってくれるのならば、そのようにしよう。

レオノーラ

(あなたは得るでしょう。私の亡骸を。)

ルーナ伯爵は、塔の近くいる衛兵に言づてに立ち去る。その隙に、レオノーラは指輪に仕込んだ毒を飲む。

レオノーラ

(彼は助かるでしょう。今は恐れることなく、最後の時を待とう。)

「彼は助かるでしょう」Vivrà!

ルーナ伯爵

(戻ってきて)あの男は、命を長らえるだろう。

(ああ、お前に「私のものだ」と何度も言って欲しい。まだ、信じられない。どうか私の疑いの心を晴らしてほしい。)

塔の中に入っていく、ルーナ伯爵とレオノーラ。

第2場 マンリーコとレオノーラの死。ルーナ伯爵、アズチェーナから「弟だった」と

宮殿内の牢獄

同じ牢獄に入っている、マンリーコとアズチェーナ。

マンリーコ

母さん、眠らないのかい?

アズチェーナ

眠れなくて、お祈りをしているよ。あいつらは、私を火あぶりに連れて行く。お前の母さんを守ってくれ。火あぶり!火あぶり!(半狂乱になって)

あの日、お前の祖母が処刑台へ連れて行かれた。恐ろしい炎。母の髪の毛は燃え上がる。ああ、誰があの恐ろしい光景から私を救ってくれるのか。

マンリーコ

まだ息子を愛しているなら、どうかゆっくり眠ってくれ。

アズチェーナ

そうだね。私は疲れている。

(眠りながら)私たちの山に帰ろう。みんなで楽しもう。

「私たちの山に帰ろう」Ai nostri monti… ritorneremo

アズチェーナは眠りに落ち、傍らにマンリーコがいる。レオノーラが牢獄を訪問。

マンリーコ

神よ、薄明かりが私をだましてるのか?

「神よ、私をだましているのか」Ciel!.. non m’inganna

レオノーラ

私です。あなたは死にません。私はあなたを救いにきたのです。あの扉を通り、ここから去るのです。

マンリーコ

だが、お前はどうする?

レオノーラ

私はここに残ります。急いでください。あなたのお命が!!

マンリーコ

私の命はどうでもいい。それよりも私の目を見ろ。それを得るのにどんな代償を払ったのだ。そうか、わかった。あの恋敵からだな。お前は私たちの愛を売ったのだ。

レオノーラ

お気持ちを変えて、お逃げください。時を逃せば、天でさえあなたの命を救えません。

マンリーコ

去れ。お前を憎む。呪ってやる!

レオノーラは倒れ、マンリーコは駆け寄る。

マンリーコ

愛しい人よ、どうしたんだ?

レオノーラ

私はもうすぐ死ぬでしょう。思っていたよりも毒が早く効いたのです。

マンリーコ

なんていうことを!

レオノーラ

他人のものとなって生きるより、あなたのために死ぬことを望んだのです。

「他人のものとなって生きるより」Prima che d’altri vivere

異変に気がつき、ルーナ伯爵が駆けつける。

ルーナ伯爵

(私をだまし、あいつのために死ぬことを選んだのか?)

マンリーコ

愚かな私。なぜ、お前を呪ったのか?

レオノーラ

時が来ました。私は死にます。ほかの人と生きるよりも、あなたのために死ぬことを望みました。

レオノーラは息絶える。

ルーナ伯爵

この男を処刑台に連れて行け!!!

マンリーコ

母さん、お別れだ!!

マンリーコは眠っている母に声をかけ、連れて行かれる。目覚めたアズチェーナ。

アズチェーナ

マンリーコ。私の息子はどこにいった?

ルーナ伯爵

死に向かっている。ここから見るがいい。

ルーナ伯爵はアズチェーナを牢の窓まで引きずっていく。

アズチェーナ

そんな。私の話を聞いてくれ!!

ルーナ伯爵

息絶えた。

アズチェーナ

あの子は、お前の弟だったんだ!!・・・敵がとれたよ。母さん。

Egli era tuo fratello!

気絶する、アズチェーナ。

ルーナ伯爵

恐ろしい!・・・私はまだ生きている。

実際に「イル・トロヴァトーレ」の舞台を観るなら

2011年に新国立劇場で公演されています。面白いオペラなので公演回数が増えるいいですね。

【公式】新国立劇場オペラ「イル・トロヴァトーレ」の公演情報

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ネトレプコとエイヴァゾフの夫婦共演で話題になりました。

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