こうもり|あらすじと簡単解説・ヨハン・シュトラウス2世

「こうもり」は、ヨハン・シュトラウス2世の人気オペレッタです。

「大晦日の夜から、元旦の朝まで」という物語設定なので、ドイツ語圏の国では年末に上演されることの多い演目です。

ファルケ博士の策の中で、ひとくせある3人、銀行家のアイゼンシュタイン、妻のロザリンデ、アイゼンシュタイン家の女中・アデーレが、騒動を巻き起こしていく話です。

オペレッタ「こうもり」の見どころ、聴きどころとしては、「時計の二重唱」Dieser Anstand, so manierlich、「私はお客を招くのが好き」Ich lade gern mir Gäste ein(Chacun à son goût)、「故郷の調べは」Klänge der Heimat などがあります。

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オペレッタ「こうもり」の簡単なあらすじ

オペレッタ前の出来事

3年前にアイゼンシュタインからいたずらをされて、「こうもり博士」とあだ名をつけられたファルケ博士は、いたずらの仕返しの準備をしていた。

オペレッタ

大晦日の夜。アイゼンシュタインは刑務所に入るために準備。ファルケ博士にそそのかされて、刑務所に行く前にロシア公爵のパーティーに参加することに。夜会には、女優になりすました女中のアデーレや、仮面をつけた妻のロザリンデが現れる。アイゼンシュタインは妻と知らずにナンパしたりと、パーティーは盛り上がる。

元旦の朝、刑務所に行くとすでに別人のアイゼンシュタインが刑務所に入っているという。妻の浮気を疑うが、逆に昨夜の浮気を責められる。ファルケ博士が、3年前のいたずらの仕返しだと種明かし。シャンパンのせいにして、全て丸くおさまる。

相関図と登場人物(アイゼンシュタイン、ロザリンデ、アデーレ)

オペレッタこうもりの相関図
オペレッタ「こうもり」の相関図・タップで拡大表示
アイゼンシュタイン銀行家テノール
ロザリンデアイゼンシュタインの妻ソプラノ
アデーレ女中ソプラノ
ファルケ博士アイゼンシュタインの友人バリトン
オルロフスキー公爵ロシアの若い貴族メゾソプラノ
アルフレート声楽教師、ロザリンデの元恋人テノール
フランク刑務所長バリトン
ブリント役に立たない弁護士テノール

作曲ヨハン・シュトラウス2世・初演・原作・台本・上演時間

こうもり Die Fledermaus

  • 作曲 ヨハン・シュトラウス2世
  • 初演 1874年4月5日 ウィーン アン・デア・ウィーン劇場
  • 原作 アンリ・メイヤック、リュドヴィク・アレヴィ 喜劇「レヴェイヨン」
  • 台本 カール・ハフナー、リヒャルト・ジュネ ドイツ語
  • 上演時間 1時間55分(第1幕40分 第2幕45分 第3幕30分)

「こうもり」第1幕の簡単な対訳 刑務所に行く前にパーティーへ

序曲

アイゼンシュタイン家・居間

居間の外から、ロザリンデへの愛の歌が聞こえてくる。

ロザリンデの元恋人(歌声)
愛しい、ロザリンデ。僕の小鳩よ。出てきておくれ。何度もキスをしたじゃないか。もう一度、僕のもとに帰っておいで。

「行ってしまった、私の小鳩」Täubchen, das entflattert ist

女中のアデーレが、姉から届いた手紙を持って居間に入ってくる。

アデーレ

バレエの踊り子をやっている姉から手紙が届いたわ。

今日、豪邸でパーティーがあるのよ。奥様のドレスをこっそり借りて、あなたも来るといいわ。」

ああ、私も行きたい!でも、暇をもらうなんて難しいわ。

外から、また歌声が聞こえてくる。

ロザリンデの元恋人(歌声)
ああ、小鳩よ、出ておいで。

アデーレ

何?この歌は?考え事をしたいのに、鬱陶しいわね。お金を投げて、遠くに追い払おう。

「こうもり」の時代は、屋敷の前で歌を歌ってお金をもらう、大道芸人のような歌手がいました。

ロザリンデの元恋人(歌声)
愛しいロザリンデ。出ておいで。

アデーレ

(ロザリンデって奥様のことじゃない。お金をせびっているんじゃなくて、奥様に求愛しているのね。)

(家の外に向かって)私は、アデーレ。ロザリンデではないのよ。うるさいからいなくなってちょうだい!

ロザリンデの元恋人は、歌うのをやめていなくなる。考え事をしている、ロザリンデが居間に来る。

ロザリンデ

(ああ、あの歌声は彼だわ。結婚前に付き合っていたテノール歌手。図々しいわ。夫の家の前でよく歌えるわね。私の立場を危うくするつもりなのかしら。)

アデーレ

(奥様だわ。演技をして、暇をもらわないと!)
奥様、私のおば様が病気なんです。

ロザリンデ

(彼は私のことを不実な女と思っているかも。でも私は結婚したのよ。それにしても、彼は4年前に突然姿を消したのに、なぜ今頃ここに来たのかしら?)

アデーレ

奥様!!私のおば様が病気なんです!!お見舞いのために、お暇をください!!

ロザリンデ

え?なんですって?誰が病気なの?お暇ですって?

ダメよ。今日から私の夫が5日間刑務所に入るのよ。準備があるんだから、暇なんて出せないわよ。

アデーレ

奥様。そもそもなんで旦那様は刑務所に入るんですか?

ロザリンデ

夫が、役人をムチで叩いて罵ったからよ。それで5日間刑務所に。

アデーレ

ああ、おば様、あなたに会いにいけないわ。最愛の姪に会えないのよ。

「二重唱・おばさんのところへ行けない」Ach, ich darf nicht hin zu dir

ロザリンデ

今日はダメよ。

女中のアデーレは去り、ロザリンデが居間にひとり。

ロザリンデ

優しい姪をもって、おば様は幸せね。でも、あなたなしでは困るのよ。夫が刑務所に入るというのに。

あなた!なぜここに!

ロザリンデの元恋人が居間に入ってきた。

ロザリンデの元恋人
なぜ、僕の腕に飛び込んでこないの?

ロザリンデ

私は結婚しているの。お願い、帰ってちょうだい。

ロザリンデの元恋人
結婚?僕は気にしないよ。それに、旦那はこれから刑務所に入るんだろう。

そうだな。条件付きで帰るよ。旦那が刑務所に入って、君が一人になったら僕を呼んでくれ。約束だよ。

ロザリンデ

わかったわ。約束するわ。

ロザリンデの元恋人が居間から出ていく。

ロザリンデ

(彼と話すだけならいいけれど、彼の歌声には逆らえないわ。魅力的な声だもの。なぜ、夫がいなくなるときに、過去の男が出てくるのかしら。なんて試練なの。)

居間に、銀行家のアイゼンシュタインと弁護士が罵りあいながら入ってくる。

アイゼンシュタイン

役立たずが、全く弁護にならないんだ。つっかえて話して、説得力がないんだよ。弁護士なのに!!

「三重唱・こんな弁護士じゃだめだ」Nein, mit solchen Advokaten

まぬけな弁護士
あ、あ、あなたが誰にでも怒鳴り散らすからでしょう!に、に、人間味のないひとですよ。

ロザリンデ

5日間の我慢でしょ。決まったのなら、入るしかないわよ。

アイゼンシュタイン

5日間のはずが、さらに3日追加された。8日間刑務所に入る羽目になったんだ。馬鹿な弁護士のせいでな!!

ロザリンデ

なんですって!!

アイゼンシュタインと弁護士がさらにお互いをけなし合って、怒った弁護士が出て行く。

アイゼンシュタイン

本当はすぐに刑務所に入らないといけなかったが、妻と最後の食事をしたいと申し出て、帰ってこれたんだ。

ロザリンデ

あなたにこんな判決を下すなんて、ひどい人たちね。

アイゼンシュタインが呼び鈴で、アデーレを呼び出す。アデーレは涙目で悲しそうな様子。

アデーレ

おばが病気で悲しくて。

アイゼンシュタイン

さっき、君のおばさんが出歩いているのを見たけど。

アデーレ

(しまった。)

ロザリンデ

あなたのおば様、本当に病気なの?

アイゼンシュタイン

アデーレ。お店で一番いい食べ物を注文して買ってきてくれ。

戻ったら、タンスの中から一番ボロでみすぼらしい服を出しておいてくれ。刑務所で、物乞いにねだられないようにボロでいかないと。

アデーレは、アイゼンシュタインの食事を買いに出かける。入れ替わりに、ファルケ博士。

ファルケ博士

奥様。いつもお美しいですな。暴君から解放されておめでとう。

アイゼンシュタイン。3日追加されるとはすごいな。裁判所に感謝だ。

ロザリンデ

悪い冗談はやめてください。夫を励まさないと。

アイゼンシュタイン

言わせておけよ。地下室に酒があるだろう。こいつの毒舌を止めるために、酒を持ってきてくれ。

ロザリンデは居間から出て地下室に降りていく。

ファルケ博士

お前を豪華なパーティーに誘おうと思ってやってきたんだ。

アイゼンシュタイン

何を言っているんだ。これから刑務所に入るんだぞ。

ファルケ博士

明日の朝、刑務所に行けばいいじゃないか。パーティーの主催者はお金持ちのロシア公爵だ。オペラ歌手に、バレリーナ、ダンサーと綺麗なお嬢さん方がそろってるんだぞ。これを逃すのか。

アイゼンシュタイン

そういえば、3年前に仮面舞踏会で、おまえがこうもりで、俺が蝶々に変装して参加したことがあったよな。あれは楽しかった。

ファルケ博士

蝶々にとっては楽しかったかも知れないが、こうもりもそうだったとは限らない。

アイゼンシュタイン

あの仮面舞踏会にいた人が今日の裁判の判事だったんだ。なんでこんな酷い目に。

アイゼンシュタインが懐中時計を取り出して、時間を確認する。

ファルケ博士

ナンパの小道具に使っている「懐中時計」だな。懐中時計をプレゼントすると言って、結局あげないんだろ。

アイゼンシュタイン

ああ、女にあげたことはないよ。女の気を引くのに丁度いいんだ。

ファルケ博士

一緒に行こう。豪華なパーティーで女と遊ぶんだ。君をフランス人として紹介しよう。ルナール侯爵としてね。

「二重唱・夜会へ行こう」Komm mit mir zum Souper

アイゼンシュタイン

行きたいけど、まずいんじゃないか。やっぱりパーティーに行くか!!刑務所に行くんだ、気晴らしをしないと。

アイゼンシュタインとファルケ博士は、陽気に踊って、今夜のパーティーを楽しみにしている。居間に入ってきたロザリンデ。二人が踊っているのを見て、呆れる。

ロザリンデ

あなたがたは何をやっていたの?

ファルケ博士

刑務所に入る彼を励ましていたんですよ。それで、奥様は何を持っているのですか?

ロザリンデ

夫が刑務所で着る服ですよ。女中のアデーレに古い服を用意しろ、と言っていましたので。

アイゼンシュタイン

この服では、泥棒に見えてしまうじゃないか。

ファルケ博士

その服では、刑務所長に軽く扱われますよ。それでは、この辺でおいとまします。

ファルケ博士が居間を出て行く。

アイゼンシュタイン

(鼻歌)何を着ていったらいいかな。刑務所に入るとしても、身だしなみは大切だよ。クローゼットを見てこよう。

陽気なアイゼンシュタインが着替えに出て行く。

ロザリンデ

(あの人、何か変ね。それに家に入ろうと待っている元恋人のこともあるし、どうしよう。)

アデーレが、お盆の上に豚の頭が乗った料理を持って戻って来た。豚の口には花が飾ってある。

アデーレ

レストランがこれしか作れないと言っていました。

ロザリンデ

とんでもない料理ね。

(とりあえず、元恋人を家に入れて話し合い、それから帰ってもらおう。それにはこの子が邪魔だわ。)

アデーレ。おば様が病気なのよね。暇をあげるわ。

喜ぶアデーレ。香水を振りかけながら着飾ったアイゼンシュタインが居間に戻る。

アイゼンシュタイン

髪も燕尾服も完璧だ。体からいい香りが漂うだろう。

ロザリンデ

囚人のためにこんな服を着るの?食事をしないで行ってしまうの?

アイゼンシュタイン

食事はいらないよ。おお、丁度いいところに花がある。(豚の口から花をとって服につける)それでは、愛するロザリンデ。お元気で。

ロザリンデ

ひとりぼっちで過ごすのね。あなたのことを思って過ごすわ。

「三重唱・ひとりになるのね」So muss allein ich bleiben

アイゼンシュタイン

神様、なんて辛いんだ。でも、行かないと。
(早くパーティーに行きたい、でも、刑務所に入る予定だから悲しまないと。)

アデーレ

辛いわ。でも、もう行かないと。
(早くパーティーに行きたい、でも、おば様の見舞いに行く予定だから悲しまないと。)

アイゼンシュタインとアデーレが居間を出て行く。入れ替わりに、ロザリンデの元恋人。

ロザリンデ

(なんであんなに軽薄なんだろう。夫は泣きながら踊っていたわ。)

ロザリンデの元恋人
やあ、旦那さんは刑務所入りか。食事まで用意してくれているじゃないか。ナイトガウンを羽織って、旦那さんになりきろう!飲んで歌うんだ。

ロザリンデ

やめてちょうだい。困るのよ。歌を歌うのはやめて。

ロザリンデの元恋人
なんで?君は僕の歌が好きだったじゃないか。

飲もう。飲もう。愛や永遠なんてものはすぐに消える。ワインで酔って忘れてしまおう。

「愛しいひとよ、飲もう」Trinke Liebchen, trinke schnell

ロザリンデ

大変。下の階から物音がするわ。誰か入ってくる。

居間に、刑務所長と役人が入ってくる。

刑務所長
奥様、ご主人を刑務所に連れにきました。下で馬車が待っていますので、すみやかに同行していただけますかな。

ロザリンデの元恋人
僕はアイゼンシュタインじゃないぞ。

刑務所長
アイゼンシュタインではない?自宅で、ナイトガウンを着てくつろいでいるのに?

ロザリンデ

(小声で)アイゼンシュタインのふりをしてちょうだい。

夫です。仲むつまじくふたりきりなのですから夫に決まっています。そうよね。

ロザリンデの元恋人
(仕方がないな。ご主人の代わりに刑務所行きか。)夫婦なんだから別れのキスをお願いするよ。別れがたいな、もう一度!

刑務所長
私は、今夜豪華なパーティーに行く予定なんですよ。早くして下さい。

ナイトガウンを着たままロザリンデの元恋人が、刑務所長に連れられて出て行く。疲れ果てて椅子に倒れるロザリンデ。

「こうもり」第2幕の簡単な対訳 豪華なパーティー

ロシア公爵の庭園サロン

豪華なサロンで、着飾った人々がくつろぎ歓談している。

人々
パーティーに招かれた私たち。なんて幸せなの。ご馳走にお酒がたくさん。ここは天国そのものよ。

「合唱・夜会が招く」Ein Souper heut uns winkt

なんでも今日のパーティーの催しは、ファルケ博士が準備したそうよ。ロシア公爵とファルケ博士が見当たらないわ。

素敵なドレスを着た、アデーレとその姉。

アデーレ

あなたが手紙を書いて、私を招待してくれたんでしょう?「着飾ってここに来なさい」って。

アデーレの姉
いいえ、そんな手紙は出してないわよ。誰かのいたずら?

アデーレ

いたずらですって。ここに来るのに大変だったのに!なんとか暇をもらって、奥様の衣装部屋に入り込んでドレスをこっそり借りたのよ。まあ、いいわ。楽しみましょう。

アデーレの姉
女中ではまずいわ。あなたは女優ってことに。


ロシア公爵とファルケ博士がサロンに現れる。ロシア公爵は、若いが少し尊大な様子。

ロシア公爵
まだ18歳だが、すでに40歳のよう。すべてやりつくして、退屈なんだ。もう笑うことができない。

ファルケ博士

私が面白いものをお見せしますよ。題名は「こうもりの復讐」です。大いに笑って下さい。

アデーレと姉が、ロシア公爵を見てうっとりしている。ファルケ博士がアデーレに気がつく。

ファルケ博士

(アデーレが来たぞ。私の書いた手紙が役に立った。)
(小声)ロシア公爵、こちらの女性が登場人物のひとりです。

ロシア公爵
(小声)なるほど。彼女は、女中かな。

アデーレの姉が、ロシア公爵にアデーレを劇場の女優だと紹介する。

アデーレ

女優です。演技が上手だと褒められますわ。

ロシア公爵
すばらしい。女優は好きなんだ。そうだ。ご婦人がた、私の代わりに賭けをしてみませんか。この財布を預けますよ。運試しだ。

アデーレ

(ロシア公爵の退屈が、私を楽しませてくれるのね!)

アデーレと姉は財布を持って、別室でやっている賭けに参加しに行く。

ロシア公爵
君の企みを教えてくれよ。

ファルケ博士

知らない方が楽しめますよ。ひとつだけ。彼女は主人公の家の女中ですよ。もうすぐ主人公が来ます。

サロンにアイゼンシュタインが来る。

アイゼンシュタイン

ファルケ、もう来ていたのか。可愛いお嬢さん方はどこだい?

ファルケ博士

食事をしているところだよ。みんなそこに集まっている。こちらのお方は、パーティーの主催者だよ。

(小声)ロシア公爵、ここに彼の妻を呼び寄せる策がありますので、もっと楽しめますぞ。

ファルケ博士は手紙を書いて、使用人に渡す。

アイゼンシュタイン

え、こちらが?失礼。ロシア人は恰幅のよい方が多いので。

ロシア公爵
(急に深刻な面持ちで)マデイラ・ワインを一杯飲みませんか?パーティーを楽しんでもらうにはロシアの流儀を知ってもらわないと。

私は客をもてなすのが好き。ただし、それはロシア流。お客が退屈していたら追い出すし、酒を断ったら許さない。さあ、楽しんでくれ。

「私はお客を招くのが好き」Ich lade gern mir Gäste ein (Chacun à son goût)

マデイラ・ワイン…ポルトガル領のマデイラ島で作られる、アルコール度数の高いワイン

アイゼンシュタイン

(大げさだな。)ロシアの流儀に従いますよ。うまい酒ですね。

ロシア公爵
そうかい。僕は美味しくないよ。だが、今日は君が楽しませてくれると聞いている。実に楽しみだ。

アイゼンシュタイン

え?何かおかしな所でもあるかな?(着ている服を確認)

ファルケ博士とロシア公爵はこそこそ小声で話していて、それを見たアイゼンシュタインは不審に思う。アデーレと姉が賭けに負けて、財布を空にして戻って来た。

アデーレ

ロシア公爵、賭けに負けて財布が空になってしまいましたわ。

(あら、旦那様。刑務所にいるはずなのに。ええい、こうなったら度胸を見せてやる。)

アイゼンシュタイン

(うちの女中だ。しかも妻のドレスを着ている。)

君はずっと女優をしているのですか?何しろ我が家の女中にそっくりなので。

アデーレ

失礼な。あなたこそ、ずっとルナール侯爵なのですか?

ファルケ博士とロシア公爵はふたりのやりとりを見て笑っている。ロシア公爵が他の客を呼び寄せる。

アデーレ

皆様、聞いて下さい。ルナール侯爵が私のことを女中などと言うのですよ。本当に失礼しちゃうわ。

侯爵様、もっとよくご覧になることね。こんな麗しい顔で手が綺麗、上品な言葉遣いと態度の女中がいまして?反省なさることね。

「侯爵様、あなたのような方は」Mein Herr Marquis

アイゼンシュタイン

(みんなに笑いものにされている…恥ずかしい。)とんだ勘違いでした。許して下さい。

アデーレ

許しましょう。美人の女中には気をつけることね。

サロンに別の男性が入ってくる。ファルケ博士は、ロシア公爵に耳打ち。

ファルケ博士

(小声)ロシア公爵。今来た彼は、刑務所長ですぞ。本人は、フランス人の騎士に変装しているつもりですよ。

刑務所長(フランスの騎士のふり)
ロシア公爵。パーティーに遅れてすみません。

ファルケ博士

ルナール侯爵、こちらはフランスから来た騎士ですよ。

アイゼンシュタイン(ルナール侯爵)と刑務所長(フランスの騎士のふり)は互いに挨拶。

ロシア公爵
それでは、ルナール侯爵と騎士は、フランス人同士ということですね。

アイゼンシュタイン

(まずい。フランス語で話されると困る!)
同郷の方にオーストリアで再会できるとは。

刑務所長(フランスの騎士のふり)
お目にかかれて光栄です。(片言のフランス語)

アイゼンシュタイン

こちらこそ、お目にかかれて光栄です。(これ以上無理!!)

(小声)ファルケ!助けてくれ。

ファルケ博士

皆様。ここはオーストリアですし、ドイツ語で話して下さいね。

刑務所長(フランスの騎士のふり)
(小声)ファルケ、この場に招いてくれてありがとう。刑務所長では、こんなパーティーに参加することは出来ないからな。

アイゼンシュタインと刑務所長が別人になりきって雑談しているのを、ニヤニヤ笑いながら見ている、ファルケ博士とロシア公爵。

ファルケ博士

(小声)ふたりがお互いの素性を知ったら、どうなることやら。

皆様。食事はもう少しお待ち下さい。もうひとりご婦人が到着する予定ですので。

人々
どんなご婦人ですか?

ファルケ博士

ハンガリーの伯爵夫人なのですが、結婚した旦那さんがやきもち焼きで、夫にばれないように、このようなパーティーには必ず仮面をつけて参加します。

アイゼンシュタイン

仮面の貴婦人か。これは面白くなりそうだ。

それにしても、女中にそっくりなのに。そうだ。彼女をナンパしてみよう。(懐中時計をアデーレの前で見せる)

アデーレ

(まだ疑っているのね。)あら、素敵な時計をお持ちですのね。

アイゼンシュタイン

これは婦人用の懐中時計ですよ。今日、素敵な芸術家のお嬢さんにプレゼントするかもしれません。

アイゼンシュタインとアデーレが腕を取り合い、人々がサロンを後にして、残ったファルケ博士。

ファルケ博士

そろそろ私の手紙を受け取った、ロザリンデが来るはず。・・・お!来たぞ。

ロザリンデ

手紙は本当ですの?仮面をつけて変装してきましたが、夫はどこに?

ファルケ博士

庭にいますよ。彼に誘われて私はここに来たんです。

ロザリンデ

鼻を伸ばして女と腕組みして!あの女は女中のアデーレ!しかもドレスは私のものだわ。病気のおば様は嘘だったのね。

ファルケ博士

奥様。この場で騒動を起こされるのはやめた方が。

ロザリンデ

わかっています。明日に私の怒りが爆発するわ。

アイゼンシュタイン(ルナール侯爵のふり)と刑務所長(フランス騎士のふり)が打ち解けた様子でサロンに戻って来た。

ロザリンデ

(まあ、刑務所長までいるわ。夫は、侯爵になりすましているのね。)

アイゼンシュタイン

ああ、愉快だ。女遊びは楽しいな。

ファルケ博士

奥様に知られたら、大事になりますよ。

アイゼンシュタイン

可哀相な妻は一人で、愛しい夫を夢に見ているはずさ。

ロザリンデ

(その愛しい夫が、私を笑いものにしている!!)

ファルケ博士

ルナール侯爵、騎士殿。二人で話していないで、美しい貴婦人に挨拶されてはいかが。

アイゼンシュタイン

これは美しい。ハンガリーの伯爵夫人はぜひ私に任せて下さい。

ファルケ博士と刑務所長はその場を離れる。仮面をつけたロザリンデはアイゼンシュタインをじーっと見つめる。

アイゼンシュタイン

(なんて力強い目でこちらを見てくるんだ。情熱的なのかな?さあ、この懐中時計で、ハンガリーの伯爵夫人を落としてみよう。)

ロザリンデ

(これが女を落としてきたと豪語する、あの「懐中時計」ね。)
まあ、なんて素敵な懐中時計でしょう。どこで買うことができますの?

アイゼンシュタイン

(やった、かかったぞ。)ウィーンの万国博覧会で買ったんですよ。ちょっとだけ、仮面を外してくれませんか?

ロザリンデ

明日になれば、私の顔を見ることが出来ますわよ。(なんとしても、この「懐中時計」を奪い取ってやる。証拠になるわ。

アイゼンシュタイン

(上品で素敵な女性だ。彼女と早くいい関係になりたいな。)胸がときめくのは恋の証ですよ。

「時計の二重唱」Dieser Anstand, so manierlich

ロザリンデ

(刑務所で悲しんでいると思ったら、女遊びをしているなんて。)胸の鼓動をその時計でカウントしてみましょうよ。

アイゼンシュタイン

1、2、3…

ロザリンデ

あなた、カウントが下手ね。貸してちょうだい。私が時計を持ってカウントするわ。1、2、3…

もういいわ。この時計はお役ご免ね。(時計を自分のものにする。)楽しい時間をありがとう。

アイゼンシュタイン

いえ、そんな…彼女に時計を捕られてしまった。大事な時計が。

ふたりのところに、すべての人々が戻ってくる。皆が、仮面をつけた夫人がいることに気がつく。

人々
この方が噂のハンガリーの伯爵夫人か。どんなお顔か気になるな。

アデーレ

皆さん、遠慮することなんてないわ。仮面を取ってもらいましょうよ。

あなた本当にハンガリーの伯爵夫人ですか?ハンガリー人ならもっと情熱的なはず。

ロシア公爵
私のパーティーでは、仮面をつけるのは自由ですよ。お気になさらず。

ロザリンデ

いいえ、私は歌でハンガリー人だと証明しましょう。

故郷の調べが、私の心を動かす。ハンガリーを思い出す。

「故郷の調べは」Klänge der Heimat

ロザリンデの歌に、人々が賞賛を送る。

人々
ファルケ博士。そろそろお楽しみが気になるのですが。「こうもり」の話だそうで。

アイゼンシュタイン

「こうもり」の話ですって。私には愉快な出来事でしたが、ファルケ博士は3枚目の役でしたよ。

3年前の出来事です。夜の仮面舞踏会に招待されました。私は蝶々、ファルケはこうもりの仮装。

私はいたずらをしてやろうと、ファルケを酔っ払わせて、森の中に置き去りにしたのです。昼間にやっと目覚めたファルケはコウモリの仮装をしたまま、自宅まで戻る羽目になったのですよ。

しばらくの間、ファルケは「こうもり博士」と皆に呼ばれていました。

人々
それでは、いたずらの仕返しが怖いのでは?

アイゼンシュタイン

私は気をつけていますのでね。

ファルケ博士

明日には、どちらがいたずらの勝者になるか、わかるかもしれませんよ。

ロシア公爵
さあ、皆さん食事をしましょうよ。

葡萄の酒を飲み干そう、みんなで乾杯だ。酒の王様、それがシャンパン。どんな遠い国でも大人気。乾杯!!

「シャンパンの歌」Im Feuerstrom der Reben

ファルケ博士

兄弟たち、姉妹たちになりましょう。みんなで幸せになるのです。永遠に、いつも今日のように。

「兄弟たち、姉妹たち」Brüderlein und Schwesterlein

酒を飲み、踊りを踊って盛り上がる人々。盛り上がる人々を見て、ファルケ博士はサロンの中心にある時計に近づいて、時間を知らせる鐘の音を鳴らせる。

アイゼンシュタイン

1、2、3、4、5、6!大変だ。そろそろ行かないと!

刑務所長(フランスの騎士のふり)
1、2、3、4、5、6!大変だ。帰らないと。あなたもですか。それでは一緒に出て行きましょう。

盛り上がる人々をかき分けて、アイゼンシュタインと刑務所は大急ぎでサロンを後にする。

「こうもり」第3幕の簡単な対訳 すべて、シャンパンのせい!

間奏曲

刑務所長の執務室

早朝の部屋。誰もいない。監房からロザリンデの元恋人の歌声が。

ロザリンデの元恋人(歌声)
ああ、やさしい僕の小鳩よ。

酔っ払った刑務所長が部屋に入ってくる。続いて、酔っ払った看守。

刑務所長
酒の王様、それがシャンパン。乾杯!!いい気分だ。看守か、何か報告があるかね。

酔っ払いの看守
問題ないです。アイゼンシュタインさんが弁護士を呼んでくれと言っているくらいで。ここは陽気な刑務所ですね。歌声まで聞こえる。

(呼び鈴)綺麗なお嬢さんふたりが来ていますよ。

アデーレと姉が訪問。ふたりの訪問に驚く、刑務所長。

アデーレの姉
ファルケ博士に、フランスの騎士様はこちらにいると聞いて来ました。昨夜はうちの妹に関心がおありでしたようなので。

アデーレ

私の口にキスをしましたよね。お願いがあるのです。実は私はアイゼンシュタイン氏の女中です。勝手に奥様のドレスを着てあの場に行ったのをアイゼンシュタイン氏は知っています。

なので、騎士様には、アイゼンシュタイン氏への取りなしと、あのドレスを私にくれるようにお願いしたいのです。昨夜のドレスは私が着た方が似合うので。

刑務所長
取りなしだけでなく、ドレスまで欲しいとは望みすぎでは?私には難しいぞ。それに君は女優の才能があるのかい?

アデーレ

才能があるか?ですって。あるに決まっているでしょ。

田舎娘を演じるときは、お茶目に、女王様を演じるときは堂々と。何でもできるわよ。

「田舎娘をやるならば」Spiel ich die Unschuld vom Lande

刑務所長
自由奔放な女中だね。(呼び鈴)大変だ。ルナール侯爵が訪問してきたぞ。とりあえず、君たちは13号室に行ってくれ。

酔っ払いの看守と一緒に部屋を出て行く、アデーレと姉。入れ替わりにアイゼンシュタイン。

アイゼンシュタイン

騎士殿!夜中に大声を出して、捕まったのかい?

刑務所長
なんてこった。騎士ではなく、本当はここの刑務所長でね。信じてくれないようなので、看守を呼んで君を捕まえてもらうことも出来るぞ。

アイゼンシュタイン

本当なんだな。私もルナール侯爵ではなくて、アイゼンシュタインなんだ。

刑務所長
面白い冗談だ。私は君がアイゼンシュタインでないと証明できるぞ。本人はすでに監房に入っているのだから。

看守が入ってくる。

酔っ払いの看守
また訪問客です。顔を隠したご婦人です。面会室に通しておりますが、どうします?

刑務所長は部屋を出て行く。残ったアイゼンシュタイン。

アイゼンシュタイン

別人が私の家で逮捕されて、刑務所に?妻と一緒に過ごしていた男は誰だ?

酔っ払いの看守が、弁護士を部屋に連れてきて、また出て行く。

酔っ払いの看守
アイゼンシュタインを連れてくるからここで待っているように。

まぬけな弁護士
何を言っているんだ?アイゼンシュタインならここにいるのに?

アイゼンシュタイン

いいことを思いついた。お前、洋服を交換しろ。弁護士になりすまして、偽物のアイゼンシュタインを詰問してやろう。

アイゼンシュタインと弁護士は服を交換するために、部屋を出て行く。看守が、ナイトガウンを着たロザリンデの元恋人を連れて戻る。

ロザリンデの元恋人
誰もいないじゃないか。お昼になるし、そろそろ帰りたいんだけど。

部屋にロザリンデが入ってくる。

ロザリンデの元恋人
ロザリンデ!やっと来てくれたんだね。ロマンチックだ。

ロザリンデ

ロマンチックなんて言っている場合じゃないのよ。夫が来るのよ。その格好はまずいわ。

ロザリンデの元恋人
そうだな。ナイトガウンはまずい。弁護士を呼んだから、もうすぐ来るはず。相談してみよう。

弁護士に変装した、アイゼンシュタイン。

アイゼンシュタイン

(浮気女め。この男と浮気していたんだな。全て聞き出してやる。)

ロザリンデ

どう話したらいいのかしら?すべては偶然でしたのよ。

「三重唱・何を聞かれるのか」Ich stehe voll Zagen

ロザリンデの元恋人
ふたりで食事をしていたところに、人違いで刑務所に入ることになって。

アイゼンシュタイン

旦那さんが気の毒ですな。

ロザリンデ

いいえ、夫は夜通し女遊びをしていたのよ。私は離婚するつもりよ。

アイゼンシュタイン

裏切り者!俺がアイゼンシュタインだ。

ロザリンデ

あなたこそ、刑務所に入らずに女遊びをしていたんじゃない。証拠はこの「懐中時計」よ。

アイゼンシュタイン

懐中時計!ハンガリーの女性だったのか。

ロザリンデの元恋人
それでは、あなたがアイゼンシュタイン?それなら、残りの7日間、監房に入ってもらわないと。

ファルケ博士と刑務所長が部屋に。

ファルケ博士

おやまあ、すでに正体は分かってしまったようですね。

ロザリンデ

(小声)ファルケ博士、いったい何をしたんですの?

ロザリンデの元恋人
やっと、本物のアイゼンシュタインが現れたんだ。本人に監房に入ってもらわないと。

アイゼンシュタイン

私はアイゼンシュタインじゃない。

看守がやって来る。

酔っ払いの看守
13号室に入れたお嬢さんたちが、早く出せってうるさいんです。

刑務所長
忘れていた。彼女たちを連れてきて。

看守に連れられてきた、アデーレと姉。

アデーレ

ひどいわ。私たちを監獄に閉じ込めるなんて。

刑務所長
実は、刑務所長なんですよ。それで、この方は誰です?

アデーレ

アイゼンシュタイン氏とその奥さんですよ。

アイゼンシュタイン

違う!アイゼンシュタインじゃない。

ファルケ博士

こうなったら、全員に出てきてもらおうか。

舞台にすべての登場人物が集まる。

人々
こうもりさん、こうもりさん、許してあげて。可哀相なこの人はすっかり弱っていますから。

「こうもりさん、こうもりさん」O Fledermaus, o Fledermaus

アイゼンシュタイン

頼むよ、誰か説明してくれ。

ファルケ博士

これが「こうもりの復讐」だ。君の災難は、全て僕のいたずら。みんな演技をしていたのさ。

アイゼンシュタイン

そうなのか?それでは、ロシア公爵、アデーレ、あと、妻と一緒にいた男も?そうなんだ。よかった。愛する妻よ。抱きしめよう。

ロザリンデの元恋人
(小声でロシア公爵に)すべて演技だったわけじゃない。でも、彼が可哀相だから、黙っていよう。

アデーレ

でも、私はどうなるの?

ロシア公爵
私があなたのパトロンになりましょう!

アイゼンシュタイン

ロザリンデ。本当にすまなかった。すべてシャンパンのせいなんだ。

ロザリンデ

すべての出来事は、シャンパンのせい。でも、シャンパンは、夫の浮気を教えてくれて、反省させたわ。

みんなで乾杯よ。酒の王様、それがシャンパン。国中で大人気。乾杯!!

人々
みんなで乾杯だ。酒の王様、それがシャンパン。国中で大人気。乾杯!!

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