【アドリアーナ・ルクヴルール】あらすじと対訳・チレア

アドリアーナ・ルクヴルール

「アドリアーナ・ルクヴルール」は、18世紀パリにいた実在の女優アドリエンヌ・ルクヴルールを題材にした悲劇のオペラです。ただ、オペラの内容は実話というわけではありません。

ザクセン伯爵モーリス(イタリア語ではマウリツィオ)をめぐり、女優アドリエンヌとブイヨン公爵夫人が恋敵の関係であったため、アドリエンヌが急死した際に「公爵夫人に毒殺されたのでは」との噂話が流れました。その噂話をもとにしたのが、オペラ「アドリアーナ・ルクヴルール」です。

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オペラ「アドリアーナ・ルクヴルール」の簡単なあらすじ

女優のアドリアーナは、ザクセン伯爵の旗手をするマウリツィオと恋に落ちていた。だが、マウリツィオはザクセン伯爵本人だった。

マウリツィオは政治的に弱い立場で、ブイヨン公爵夫人と愛人関係にあり、援助を受けていた。マウリツィオは愛人関係をやめてアドリアーナを選ぶが、公爵夫人は受け入れない。

アドリアーナと公爵夫人がマウリツィオをめぐり火花を散らす中、公爵夫人はアドリアーナに毒を塗った花束を送る。

相関図と登場人物(アドリアーナ・ルクヴルール、マウリツィオ、ブイヨン公爵夫人

相関図をタップすると、大きく表示できます。
アドリアーナ・ルクヴルール女優ソプラノ
マウリツィオザクセン伯爵テノール
ブイヨン公爵夫人公爵夫人メゾソプラノ
ブイヨン公爵貴族バス
ミショネ初老の舞台監督バリトン
シャズイユ僧院長聖職者テノール

作曲グルック・初演・原作・台本・上演時間

アドリアーナ・ルクヴルール Adriana Lecouvreur

  • 作曲 フランチェスコ・チレア
  • 初演 1902年11月6日 ミラノ リリコ劇場
  • 原作 戯曲「アドリエンヌ・ルクヴルール」(1849年)
  • 台本 アルトゥーロ・コラウッティ イタリア語
  • 上演時間 2時間10分(第1幕35分 第2幕35分 第3幕25分 第4幕35分)

「アドリアーナ・ルクヴルール」第1幕の簡単な対訳 女優のアドリアーナ

コメディ・フランセーズの楽屋

1730年、パリのコメディ・フランセーズの舞台裏。出番を待つ俳優、女優たちが忙しそうにしている。

俳優たち
「ミショネ、私の扇を持ってきて。」
「マントがない!」

ミショネ(舞台監督)

ミショネ、こっちだ、あっちだ。雑用ばかりで大変だ。舞台監督だというのに、これじゃあ下働きだ。

「ミショネ、こっちだ」Michonnet, su!

俳優
何をつぶやいているの?

ミショネ(舞台監督)

・・・何でもない。

俳優たち
「出番を待つのは退屈だわ。」
「私が演じるのは、公爵夫人。」
「言葉使いに気をつけろよ!」

楽屋に、ブイヨン公爵と僧院長が入ってくる。

ミショネ(舞台監督)

ブイヨン公爵と僧院長、歓迎しますよ。

俳優らの噂話
「何者だ?」
「公爵は、女優デュクロのパトロンで化学のアマチュア。僧院長は、公爵夫人のお気に入り。」

化学のアマチュア・・・公爵夫人が毒を手に入れられたのは、公爵が 化学研究を趣味でやっていたから。

ブイヨン公爵や僧院長を取り囲み、俳優や女優たちが挨拶していく。

ブイヨン公爵
ところで、女優のデュクロはどこに?いつ始まるのかね?

ミショネ(舞台監督)

彼女は準備をしていますよ。もうすぐ始まります。今日は、デュクロとアドリアーナが共演するので満員です。

ブイヨン公爵
デュクロは女王だからな。

ミショネ(舞台監督)

アドリアーナは女神ですよ。静かに!彼女が来た。

台本を読みながら、アドリアーナが楽屋入り。

アドリアーナ

(台詞を読みながら)ダメだわ。うまくいかないわ。

ブイヨン公爵
素晴らしい。あなたは女神だ。

アドリアーナ

褒めすぎですわ。

私は芸術の卑しいしもべ。言葉の力で皆様に伝えるのです。私は詩のアクセントであり、人間ドラマの響きであり、人の手による楽器なのです。

「私は芸術の卑しいしもべ」Io son l’umile ancella

ブイヨン公爵
演技はどなたに学んだのですか?

アドリアーナ

演技は誰にも・・・いいえ、ミショネに。敬虔な心と謙虚な知性を持ったミショネが、唯一の先生で、友です。

ミショネ(舞台監督)

(涙を見せて)アドリアーナ。冗談を。

さあ、幕が上がる。準備はできたか?

ブイヨン公爵
あの、デュクロはどこに?

ミショネ(舞台監督)

先ほど何か書いているのは見ましたけど。

女優のひとり
公爵がここにいるのは、彼女も知っているのだから、公爵宛の手紙ではないわね。

俳優たちが騒々しく去った後、公爵と僧院長。

ブイヨン公爵
デュクロは誰に手紙を?僧院長、彼女の手紙を盗んでこい。

戸惑う僧院長に財布を握らせて、二人は出ていく。楽屋には、台詞を覚えているアドリアーナとミショネ。

ミショネ(舞台監督)

(彼女に結婚を申し込みたいが、どうしようか。思い切って言ってみようか。)

最近、遺産が手に入ってね。そろそろ結婚をしたいと思っているんだ。

アドリアーナ

あら、私も結婚したいのよ。自分の恋人が帰ってきたの。

ミショネ(舞台監督)

(彼女の恋人!)彼を愛しているのかい?

アドリアーナ

あなたに秘密にする必要はないわね。彼はザクセン伯爵の旗手(軍の旗を持つ人)なの。今日は舞台を見に来るわ。

ミショネ(舞台監督)

(私の恋はこれまでだ。)そろそろ、仕事だから。

ミショネが去り、アドリアーナは台本を読み始める。マウリツィオの訪問。

マウリツィオ

人に止められたけど、来てしまったよ。

アドリアーナ

まあ!軽はずみだわ。

マウリツィオ

なぜ?心からの愛は禁止できないよ。

優しく微笑む母の面影をあなたに見る。あなたの心には、私の甘い故郷の空気を見ることができるよ。

「優しく微笑む母の面影を」La dolcissima effigie sorridente

アドリアーナ

美しい言葉ね。それで、あなたの昇進はどうなったの?

マウリツィオ

ザクセン伯爵(実は本人)は約束してくれたけど、守ってくれないんだ。

アドリアーナ

伯爵を知りたいわ。あなたのために、彼に取り入ってみたいの。

マウリツィオ

彼は危険な男だよ。

アドリアーナ

知っているわ。すべての女性が彼のとりこなのよ。

舞台に行かないと。あなたのために演じるわ。後で会いましょう。

アドリアーナは自分の胸元からスミレの花束を取り、マウリツィオのボタンにつけて送り出す。

スミレの花束・・・マウリツィオからブイヨン公爵夫人の手に渡る。公爵夫人がスミレの花束に毒を塗り、アドリアーナに届ける。


ブイヨン公爵と僧院長。僧院長は、デュクロの手紙を手にしている。

ブイヨン公爵
それが、私の愛人にもかかわらず別の男に渡そうとしている手紙だな。怒りで読めない、お前が読んでくれ。

僧院長
今夜11時、いつものようにセーヌ川の家で。

ブイヨン公爵
家だと!私がデュクロにあげた家じゃないか。誰に宛てた手紙だ?

僧院長
多分、マウリツィオですね。

ブイヨン公爵
同じ場所で、私たちも楽しいパーティを開こう。

「楽しいパーティを・二重唱」Un gaio festino

僧院長
俳優たちを招くのですね。素晴らしい計画です。


舞台裏から、ミショネがアドリアーナの舞台を見ている。

ミショネ(舞台監督)

さあ、モノローグだ。うまくいった。

彼女が素晴らしい演技をしても、私のためではなく、別の男のため。だが、どうしようもない。

あれ?小道具の手紙はどこにいったのか?

「さあ、モノローグだ」Ecco il monologo

ミショネは小道具の手紙を探す。楽屋にマウリツィオが現れる。

マウリツィオ

(政治を呪いたい。この約束を受けたら、アドリアーナと会う約束を断ることになる。だが、デュクロが寄こしたこの手紙は・・・)

ミショネ(舞台監督)

あった!紙を見つけたぞ。

ミショネが置いた紙を見る、マウリツィオ。

マウリツィオ

(何も書いていない。ここにアドリアーナへのメッセージを書こう。)

女優が手紙を手に取り、舞台に出ていく。

マウリツィオ

(彼女は、舞台で手紙を読むはずだ。明日まで私と会えないことを。)

マウリツィオは、立ち去る。

ミショネ(舞台監督)

(舞台を見て)よし、手紙がアドリアーナに渡ったぞ。なんてこと。顔が青ざめて、震えている。神の芸術だ。

劇場に拍手喝采が起こる。俳優たちは熱気に包まれているが、アドリアーナはひとり青ざめている。

ブイヨン公爵
アドリアーナ、素晴らしい演技でした。皆さんをぜひ、私の晩餐に招待したい。舞台の皆さんも、貴族も、ザクセンの伯爵も。

アドリアーナ

(ザクセン伯爵と話してみたい。)行きます。

ブイヨン公爵
真夜中に!

アドリアーナはミショネに支えられて、仲間や貴族たちに挨拶していく。

「アドリアーナ・ルクヴルール」第2幕の簡単な対訳 マウリツィオの秘密

ブイヨン公爵の愛人女優の別荘

月が光る夜、セーヌ河のほとりの別荘。庭の見えるガラスの扉がある広間。ブイヨン公爵夫人がひとりで待っている。

ブイヨン公爵夫人

苦い喜び、甘い責め苦、愛する心が彼を求めている。来てくれるのかしら?私を忘れているの?

「苦い喜び、甘い責め苦」Acerba voluttà, dolce tortura

ザクセン伯爵のマウリツィオが入ってくる。

マウリツィオ

遅くなりました。何者かにつけられていたので。

ブイヨン公爵夫人

本当かしら?ほかに約束でもあったのでは?あなたの胸にあるスミレの花束は何?

マウリツィオ

・・・これはあなたのために。(スミレの花束を渡す)遅れたことをお許しくださいますか。

ブイヨン公爵夫人

そうしないとね。あなたの権利についてフランス王妃と話したわ。あなたの境遇に涙していたのよ。でも、枢機卿が・・・。実はあなたに逮捕の命令が出ています。

マウリツィオ

それでは、私はここを去ります。

ブイヨン公爵夫人

何を言っているの?簡単に言うのね。去っていくあなたを見送らないといけないの?

・・・私はわかっているわ。あなたは私に飽きたのでしょう。別の女を好きになったのね。

マウリツィオ

嘘をつけない。なんと言えばいいのか。

ブイヨン公爵夫人

彼女が誰なのか言いなさい。名前を!

マウリツィオ

お許しください。

私の心は疲れ、目標はまだ遠くにあります。私の苦悩に、虚しい非難を加えないでください。あなたに多くの借りがあります。愛が覚めたとしても、私の心は思い出で花開いています。

「心は疲れ」L’anima ho stanca

馬車の音が響く。

マウリツィオ

別の車が。

ブイヨン公爵夫人

私の夫だわ。

マウリツィオは、公爵夫人を別室に隠す。ブイヨン公爵と僧院長が広間に入る。

ブイヨン公爵
見ましたぞ、ご婦人と一緒にいるのを!

僧院長
私たちはすべて知っていますよ。

マウリツィオ

(重々しく)公爵。あなたがお望みならそのように。

ブイヨン公爵
(驚いて)いや、決闘だなんて。

私たちはあなたを笑いに来たんですよ。デュクロと別れようと思っていたのです。あなたにお譲りしますよ。

マウリツィオ

(驚いて)デュクロ?・・・ああ、理解できました。

晩餐に招かれた、アドリアーナや俳優たちが到着する。

ブイヨン公爵
(アドリアーナに)こちらはザクセン伯爵だよ。

アドリアーナ

なんてこと!

マウリツィオ

(驚いて)なぜ彼女が!(小声で)何も言わないで。

ブイヨン公爵
(僧院長に)あなたは晩餐の用意を。私は、罠にかかったデュクロが逃げ出さないように、屋敷を見て回ろう。

ブイヨン公爵と僧院長は広間を出ていく。

アドリアーナ

では本当なの?あなたが偉大なマウリツィオだったのね。

「では本当なの?・二重唱」Ma, dunque, è vero?

マウリツィオ

(照れ隠しで)ザクセン伯爵(自分のこと)を誘惑するつもりだったの?

アドリアーナ

あなたのためを思って。でも本人だったのね。王座にふさわしい方です。親切な嘘を許しましょう。

マウリツィオ

何も言わないで。あなたは私の勝利であり、新しい王冠なのですよ。

だが、今は離れよう。彼らが戻ってくる。


ミショネと僧院長が話している。

僧院長
ミショネ、あなたを外には出せない。公爵の命令で、この屋敷は誰でも入れるが、誰も出ることはできないのだ。

ミショネ(舞台監督)

でも、デュクロと打ち合わせをしたいのですよ。

僧院長
(笑って)デュクロなら、この屋敷にいるぞ。ザクセン伯爵(マウリツィオ)とデュクロの密会が今夜あったのだよ。

アドリアーナ

ザクセン伯爵(マウリツィオ)とデュクロが?

マウリツィオ

僧院長、やめて下さい。

僧院長
(別室を指して)あの扉の向こうで、デュクロを見つけられます。

ミショネ(舞台監督)

彼女に用事があるから、私が行きましょう。

アドリアーナ

私も行きます。

アドリアーナをマウリツィオが止める。

マウリツィオ

話を聞いてくれ。あの扉の向こうにいるのは、デュクロではない。政治的な事情で、別の女性がいるのだ。

君にお願いがある。僧院長が部屋に入るのを止めてほしい。そして、その女性を脱出させたい。約束してほしい。女性の顔を見てはいけない。

アドリアーナ

いいわ。彼女を助けます。(彼は誓った。約束を守りましょう。)

マウリツィオがその場を離れ、ミショネが別室から戻ってくる。

ミショネ(舞台監督)

人違いですよ。デュクロではありません。暗くてよく見えなかったので、誰なのかはわかりませんが。

僧院長
私が誰なのか見に行こう。

アドリアーナ

賢明ではないですよ。他人の秘密を暴こうとするのは。

それよりも、ブイヨン公爵に報告したほうがよいですよ。あなたの愛人は無実だったと。

僧院長が、広間を出ていく。

ミショネ(舞台監督)

アドリアーナ。何をするつもりだ。

アドリアーナ

あなたはこの扉を見張っていて。

アドリアーナは、部屋の明かりを消してある別室に入る。

アドリアーナ

開けてください、奥様。マウリツィオの名のもとに。あなたをお助けします。

「開けてください、奥様・二重唱」Aprite! … Apritemi, signora

ブイヨン公爵夫人

私を助けるのは無理よ。すべての扉に鍵がかかっているというのに。

アドリアーナ

この鍵で扉を開けることができます。鍵をどうぞ。私は道案内できませんが。

薄暗い中、ブイヨン公爵夫人が鍵を受け取り、秘密の扉近くまで行く。

ブイヨン公爵夫人

鍵があれば大丈夫。屋敷のことは知っているわ。あなたはどなたなの?このような親切を誰に頼まれたのですか?

アドリアーナ

私にすべてを打ち明けてくれる方にです。

ブイヨン公爵夫人

すべてを!マウリツィオにそうさせたのは誰?あなたの正体は何者!

アドリアーナ

彼の名前を呼ばないで。そちらこそ何者!

ブイヨン公爵が通っていくのが、ガラス越しに見える。

アドリアーナ

ブイヨン公爵だわ。あなたはここにいて。

ブイヨン公爵夫人

断るわ。

すぐに、ブイヨン公爵夫人は鍵を使って出ていく。ブイヨン公爵や僧院長、俳優たちが集まってくる。ミショネが腕輪を拾い、アドリアーナに見せる。

「アドリアーナ・ルクヴルール」第3幕の簡単な対訳 アドリアーナと公爵夫人の対立

ブイヨン公爵の館

夕方、ブイヨン公爵の大広間。僧院長と召使によって、豪華な夜会の準備がされている。着飾ったブイヨン公爵夫人が現れる。

ブイヨン公爵夫人

(あの女は私の恋敵ね。どうやって彼女の名前や身元を知ればいいの。彼女は言ったわ。マウリツィオを「すべてを打ち明けてくれる方」だと。私の愛人を奪うのは許さない。

これが、私の口づけの成果なの?彼は別の女のとりこになり、あの女は私を笑っているに違いない。)

僧院長
あなたは女神より美しく、太陽のようだ。

ブイヨン公爵夫人

そんなことより、今夜マウリツィオの新しい恋人を見つけて。

僧院長
ええ、すぐにわかるでしょう。

夜会が始まり、ブイヨン公爵が客人を迎え入れる。アドリアーナとミショネが到着。

ブイヨン公爵
アドリアーナ、あなたの魅力を身近に感じることができて嬉しいです。

アドリアーナ

あまりに名誉なことで感動しています。

ブイヨン公爵夫人

(この声は!まさか新しい恋人が、女優だったとは!)

ブイヨン公爵
そろそろ夜会を始めたいが、マウリツィオを待とう。

ブイヨン公爵夫人

(意図的に)無駄に待つことになりますわ。あなたもご存じでしょう。あの決闘を。(アドリアーナを見つつ)ザクセン伯爵は、大変な怪我をしたそうですよ。

アドリアーナがショックで倒れる。

ミショネ(舞台監督)

アドリアーナ。大丈夫か?

アドリアーナ

何でもありません。暑さや明るさで・・・(公爵夫人の表情の冷たさよ!)

マウリツィオの到着。アドリアーナが安堵の表情。

ミショネ(舞台監督)

(やめなさい。喜びを見せるのは。)

ブイヨン公爵
今しがた、あなたが怪我をしたという話が出たのですよ。

マウリツィオ

(笑って)まさか。(小声で公爵夫人に)あなたのためにここに来ました。

ブイヨン公爵夫人

(小声で)ありがとう。

アドリアーナ

(マウリツィオと公爵夫人がこそこそ話している!)

ブイヨン公爵
そうだ。あなたの偉業について話が聞きたいな。

マウリツィオ

ロシアのメンチコフ将軍は、私を殺せと命令を受けていました。力の差は歴然。3日間敵から身を隠した後、一気に攻撃を仕掛け、彼らを撤退させることに成功しました。

「ロシアのメンチコフは命令を受けた」Il russo Mencikoff riceve l’ordine

全員
勇気を称えよう。

ブイヨン公爵
皆さん、バレエの催し「パリスの審判」が始まります。

バレエ「パリスの審判」

パリスの審判・・・ギリシャ神話。トロイア王の息子パリスが、三美神(ヘラー・アテーナー・アプロディーテー)のうち誰が一番美しいか判定させられた話。

バレエを鑑賞しながら、アドリアーナとブイヨン公爵夫人が会話。

ブイヨン公爵夫人

宮殿では、ザクセン伯爵の恋人は女優ではと噂になっていますよ。

アドリアーナ

劇場では、高貴な女性ではと・・・

ブイヨン公爵夫人

昨夜伯爵が密会したのは女優よ。ザクセン伯爵がもらったスミレの花束が証拠よ。

アドリアーナ

(私の花束!)そうですか?私はあの夜、この腕輪を見つけました。

ブイヨン公爵夫人

(私の腕輪!)

騒動になって、ブイヨン公爵とマウリツィオがやってくる。

ブイヨン公爵
この腕輪は、妻のだ。

紳士と淑女
どうしたんだ?二人の女性の間には、謎がある。

バレエの演目で、パリスが公爵夫人に黄金の林檎を渡す。

黄金の林檎・・・パリスの審判の発端となった「最も美しい女神に」と書かれた黄金の林檎。三美神が林檎をめぐって、パリスに誰が一番美しいか判断をさせた。

ブイヨン公爵夫人

(林檎を受け取り、作り笑顔で)アドリアーナに朗読を求めるわ。「捨てられたアリアドネ」にしてちょうだい。

アリアドネ・・・ギリシャ神話。アリアドネが寝ている隙に、恋人にナクソス島に置き去りにされた。この話を題材にした、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「ナクソス島のアリアドネ」がある。

アドリアーナ

(なんですって!)

ブイヨン公爵
それよりも「フェードル」の帰還のほうがいいな。

フェードル・・・ギリシャ神話を題材にした、フランス劇作家ジャン・ラシーヌの作品。フェードルが夫の留守中に義理の息子に恋をする話。ラモーのオペラ「イポリートとアリシー」はこの話を題材にした作品。

アドリアーナ

「フェードル」にしましょう。

(朗読)天よ、私はあの日に何をしたのか?夫と義理の息子は帰ってくる。不倫の炎を前にして、私が震えるのを息子は見るだろう。

息子は黙っているだろう。だが、私は耐えられるだろうか。

(公爵夫人を指差して)大胆にも不純、裏切りが喜びであり、冷静で、決して赤面することのない顔でいることを。

「天よ、あの日に何をしたのか」Giusto Cielo! che feci in tal giorno?

全員が拍手をして、遅れて公爵夫人も拍手をする。

ブイヨン公爵夫人

(なんて屈辱。彼女に復讐してやるわ。)
(マウリツィオに)私の側にいて。

アドリアーナ

(ブイヨン公爵に)そろそろお暇します。
(マウリツィオに)私についてきて。

マウリツィオ

(アドリアーナに)明日の朝に会おう。

アドリアーナはマウリツィオを渋い顔で見て、ミショネと夜会を去る。ブイヨン公爵夫人はアドリアーナを苦々しく見送る。

「アドリアーナ・ルクヴルール」第4幕の簡単な対訳 アドリアーナの死

アドリアーナの家

日没前、アドリアーナ宅の居間。病に伏せるアドリアーナを見舞いに、ミショネが訪問。部屋着姿のアドリアーナ。

ミショネ(舞台監督)

辛そうだね。

アドリアーナ

眠れないの。何も手につかない。あの日の夕方が思い出されて。

ミショネ(舞台監督)

なんて向こう見ずだったんだ。

アドリアーナ

あなたは見ていないのね。公爵夫人が怒りに震えるところを。「赤面することない顔で」と私が行った時の公爵夫人の表情。

でも、私は負けたの。公爵夫人にマウリツィオを奪われた。

アドリアーナは、ガウンを着て部屋を出ていこうとする。

ミショネ(舞台監督)

ちょっと待て。どこに行く?

アドリアーナ

公爵夫人を殴るのよ。・・・ああ、嫉妬で苦しんでいるの。死んだほうがいいのよ。

アドリアーナが泣き出し、ミショネが慰める。

ミショネ(舞台監督)

お嬢さん、泣くのはおやめ。

「お嬢さん泣くのはおやめ・二重唱」Bambina, non ti crucciar, non piangere!

アドリアーナ

この苦しみはひどいのよ。

ミショネ(舞台監督)

一人で悲しまないで。私も愛に苦しんでいるのだから。キューピッドは年齢を選ばないのだよ。

アドリアーナ

あなたも恋を・・・死にそうだわ。恋人を疑うのは。

ミショネ(舞台監督)

私のように恋が叶わないと確信するのも、苦しいものだよ。

俳優と女優たちが、アドリアーナを見舞いに来た。

俳優ら
誕生祝いに来たよ。

アドリアーナ

私を祝いに!

俳優と女優らがそれぞれプレゼントを渡していく。

ミショネ(舞台監督)

私からも。

アドリアーナ

(困ったように)私が王妃からいただいたネックレス。(真面目に)でも、どうやって?

ネックレス・・・アドリアーナが王妃からいただいたネックレス。マウリツィオの借金返済のために、公爵に売った。

ミショネ(舞台監督)

(軽い調子で)公爵から買い戻したんだ。前に話しただろう。遺産が手に入ったと。

アドリアーナ

遺産で結婚すると言っていたのに。

ミショネ(舞台監督)

その話は煙に消えたよ。

アドリアーナはミショネの手を取り感謝する。

俳優ら
芸術の女王よ、舞台への復帰を。

アドリアーナ

(決意して)そうね、戻るわ。

俳優らが舞台復帰を喜んで騒ぐ中、小箱を手にして女中が入ってくる。

アドリアーナ

小箱?手紙があるわ。マウリツィオよりと書いてある。(小声で)ミショネ、人払いをお願い。

ミショネが「飲み物でもどうか?」と俳優たちに出ていくように促す。

アドリアーナ

(小箱を開けたときに)まあ!

小箱を開けたときに悲鳴を上げて、ふらつく。

ミショネ(舞台監督)

(戻ってきて)どうしたんだ?

アドリアーナ

開けたときに、凍り付くような息を感じ、死の予感がしたの。

ミショネ(舞台監督)

そんな馬鹿な。何が入っていたの?

アドリアーナは、枯れたスミレの花束を見せる。

アドリアーナ

私がマウリツィオにあげた花束。なんて残酷なの!

ミショネ(舞台監督)

落ち着いて!それは彼からではない。あの公爵夫人からだ。

アドリアーナ

そうかもしれない。でも、なんて酷いことをするの。

哀れな花よ、昨日咲いたばかりなのに、今日死ぬのね。お前に口づけをげましょう。最初で最後の口づけを。この花と同じように、すべて終わったのね。

「哀れな花よ」Poveri fiori

枯れた花束に口づけして暖炉に捨てる。

ミショネ(舞台監督)

違う、終わっていない。彼は来るよ。私が彼にすべてを知らせる手紙を書いたからね。

マウリツィオ

(声)アドリアーナ!

アドリアーナ

空耳・・・いいえ、彼だわ!

ミショネは黙って部屋を出ていく。マウリツィオが部屋に入ってくる。

マウリツィオ

許してくれ、しばらく会えなかったのを。

アドリアーナ

不実な人はそのように言うのよ。公爵夫人の側にいたのでは?

マウリツィオ

私は彼女を軽蔑している。彼女は私を騙していたのだ。君が彼女の手から私を開放してくれた。だから、君に夫としての手を差し出そう。私の栄光ある名前を受け入れてくれないか。

アドリアーナ

いいえ、私には王冠はふさわしくないのです。

「私には王冠はふさわしくない・二重唱」No, la mia fronte, che pensier non muta

マウリツィオ

君ほどに貴婦人にふさわしい人はいないよ。

二人が抱き合っていると、アドリアーナが急に震えだす。

マウリツィオ

どうして震える?なんて顔色が悪いんだ!

アドリアーナ

・・・あの花束。あなたが私に送り返した花束。

マウリツィオ

私は送っていない。その花束は?

アドリアーナ

暖炉に捨ててしまったわ。

症状がさらに悪化して、顔は土気色、ぐったりと横たわっている。

何の毒か?・・・ヒ素。オペラの原作である戯曲「アドリエンヌ・ルクヴルール」では、ブイヨン公爵が毒物の分析目的で自宅にヒ素を持ち帰り、その毒を公爵夫人が悪用します。

アドリアーナ

ここはどこなの?あなたは何を言っているの?私は何を言ったのかしら?あなたは、誰?

マウリツィオ

あなたの愛する夫、マウリツィオだよ。

アドリアーナ

見えませんか?彼は劇場のボックス席にいるの。大勢の人がいても、私には彼しか見えない。

マウリツィオは、使用人の呼び出しのベルを鳴らす。女中が部屋に入ってきて驚く。

マウリツィオ

君の主人が大変だ。急いでくれ、薬を!

アドリアーナ

(マウリツィオの腕を振りほどいて)あなたは誰?あっちに行って。(抱きついて)私のマウリツィオ。

アドリアーナは錯乱状態になり、気絶する。

マウリツィオ

助けてくれ!助けてくれ!

ミショネが慌てて入ってくる。

ミショネ(舞台監督)

神よ!アドリアーナ。一体どうして?

マウリツィオ

彼女はスミレの花束の匂いを嗅いだ。

ミショネ(舞台監督)

まさか、花束に毒が!

アドリアーナ

私を救って。死にたくない。彼は私が好きなの。彼の花嫁だと私を呼んでくれたのよ。

ここには死がある。蛇が私の心臓を噛んでいる。

(突然立ち上がり)私はメルポメネ。これは光です。光は私を誘惑し、昇華する。最初で最後の愛の光。苦しみから解放されて、私は飛ぶ。

メルポメネ・・・ギリシャ神話の文芸の女神ムーサたちの中のひとり。女性歌手の意味をもつ。

マウリツィオとミショネの腕に倒れ、動かなくなる。

マウリツィオ

アドリアーナ!

ミショネ(舞台監督)

死んでしまった!

マウリツィオはアドリアーナを揺さぶって目覚めさせようとし、ミショネは彼女の心臓に手を当てる。二人の嘆きの中、幕。

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